原価計算における誤った定説(◆)や誤った思い込み(◇)の多くは、原価計算の方向性に関わる
重要な事項であるので、以下に概要を説明させていただきます。書籍の抜粋です。詳細を知りたい方
は書籍を購入ください。
◇原価計算システムを導入すれば、原価管理が実現できる。
販売管理システムとか、給与計算システムは、導入すれば、ほぼその名前の目的を達成できます。
しかし、原価計算は目的が多数あり、目的を強く意識して整備しないと目的は実現できません。
また、1つの原価計算で、すべての目的を実現できると思われがちですが、目的と仕組みの間で
相性が悪いものがあり、複数の目的を実現する場合は、相性が合う目的毎に別々の原価計算の仕組
みが必要になります。
◇市場が価格を決める。コストダウンが唯一の正義である。
コストダウンが唯一の正義のごとく言われ続け、企業は余力がなくなり、日本は弱体化しました。
しかし、ようやく価格アップ(適正価格)が許容される時代になりつつあります。コストダウン
ばかりに注力してきたため、「原価管理」以外の収益アップ手段を忘れていないでしょうか。原価
計算は、「価格アップ」交渉に有効な製品原価情報を提供します。
◆特注品に適合する原価計算は個別原価計算であり、量産品に適合する原価計算は総合原価計算。
傾向としてはほぼ誤りではありませんが、本質は違います。建物の建設や工作機械の製作等の「塊
生産」が個別原価計算であり、食品、自動車部品、電気製品等の量産品の「連続生産(すなわち非
塊生産)」が総合原価計算です。これは同一品に対して月末時点で、加工進度が異なるものがあるか
どうかであり、異なるものがある場合(非塊生産品すなわち連続生産)は総合原価計算による進度
別計算が必要です。
◆製造原価は製造直接費と製造間接費に区分して原価計算する。
製造直接費は製品に対して直課できる原価であり、製造間接費は製品に直課できないので、部門原
価を配賦計算し、最終的に製品に集計する原価という意味です。しかし、重要な労務費や設備費は
この定義に従うと、製造間接費になってしまいます。私は、配賦計算を利用しますが、重要の意味
を込めて「準製造直接費」として、製造間接費とは別枠で計算するようにしています。
◇標準原価計算を妄信している。
いろいろな原価計算がある中で、その頂点が標準原価計算であると妄信している方々が多いようで
す。しかし、多くの製品に対して、1つずつ加工費に対する標準原価を設定・更新できることが前
提条件であり、運用難度が極めて高く、更新できない場合、標準原価が陳腐化するリスクがありま
す。また、部品を製品まで積み上げる時に部品表を使います。この部品表の階層(1階層が1工程)
が生産記録(完成、投入)と一致していることが、工程毎の加工費の差異管理をするために必要と
なります。
◇予定原価計算を標準原価計算と思い込んでいる。
広義では標準原価計算でありますが、実際には「予定原価計算」である場合が多々あります。科学的
根拠や理想をもとに設定した原価を「標準原価」と呼び、過去の実績をもとに見積もった原価を「予
定原価」と呼びます。この標準原価と予定原価では、原価計算の目的に対する適合性が大きく異なり
ます。標準原価は原価管理に向いていますが、未実現のリスクがあり、予算管理や売価参考には向い
ていません。
◆標準原価計算は早く計算でき、早く決算に利用できる。
標準原価計算と実際原価計算の優位性の比較をする場面で、標準原価計算の方が早く計算できるとい
う定説がありますが、これは前提条件が原価差異が大きくなく、標準原価ベースで月次決算を進めて
も影響がないという場合だけです。原価差異が大きい場合は、早とちりの誤報告となります。